蓮は泥中より発す

अद्वैत :非二元に還るプロセスの記録

№351 波に乗るように

「風から守られた場所では灯火の日は揺れない。これは、その心素の働きがよく制御
され、真我と合一しているヨーガ行者の心素についての比喩なのである。」
                       バガヴァッド・ギーターⅥ-17

 

現代社会では、ある一つの状態や“なにか”を、それだけが素晴らしいもののように注目して取り上げる兆候がある。

ベータ波の一種であるSMR波(Sensory Motor Rhythm:感覚運動リズム)が出ているときは冷静で集中した状態になるため、パフォーマンスが上がると考えられてニューロフィードバック技法が広がりを見せているということをお伝えした。

ホルモンについても、ハッピー・ホルモンと呼ばれるオキシトシン、しあわせホルモン・セロトニンは、どんどん出たら良さそうに思われているように感じる。

では逆に、ストレスホルモンと呼ばれる、アドレナリンやコルチゾールは悪いやつで、なるべく出ない方が良いとでもいうのだろうか?

「苦楽、得失、勝敗を平等(同一)のものと見て」というバガヴァッド・ギーターの有名な詩句があるが、これはからだの働きに対しても必要な見方である。

人は調和の中で生きている
ほんの僅かでもこの調和が崩れると、思いもよらないことが起きたりする。

あるひとつの症状が「悪い」からそれを「無くして」しまえば万事OKか?、というとそんな単純な話ではないのだとわかって欲しい。

それらの症状は、真の調和に向かうためにあなたのもとにやって来てくれた。
その症状が訴えかけてくるものを、聴きとろうとして欲しい。

幼少期からの心の反応のパターンや防衛の姿勢が、無意識に今も続いていることがある。
単なる体操であっても、様々な感覚や湧き上がる感情を通じて、自分の真の欲求や本心を教えてくれているものだ。これらは重要はヒントなのだ。

このサインを聴きとるのに少し練習がいる。
いきなり心や感情は見つめにくい。

だからこそ肉体から練習をはじめ、動作から生じる感覚等を「意識化」していく。

十全に感じることができるようになった先に、「客観視」という視点がある。
感情も感覚も全身で感じ取れば、その目に見えないものによってどれだけ体が影響を受けているかわかるだろう。

あなた自身にしかわからない、この感覚を言葉にする訓練は、単純にひとつの状態を良しとする偏った見方からあなたを解放し、人間としての器そのものを押し広げてくれるだろう。

感じ、そして語って欲しい。
世の中で推奨される状態や考えを離れ、ただあなたについて十分に味わってほしい。

パフォーマンスが高いある一定の状態など存在しない。
どんなことがあっても必ず浮上し、強い緊張のあとは完全にダラけることだってできる、しなやかさを目指したい。
人にどう思われたって、決して折れてしまわないしなやかさを身につけて、人生という荒波を乗り切っていきたい。

最後に一つ、救われたヨーガの教えを紹介しておく。
ヤバいと思ったら、わき目も降らずに逃げること。
逃げてよい。振り返るな。

№350 ストレス時の脳波

「運動器官を制御しても、意思が感覚器官の対象物を捉えつつ座している心迷える者は、ニセ行者と言われるのだ。」   バガヴァッド・ギーター Ⅲ-6

 

目を覚まして活動しているとき、脳にはベータ波が出ている。
高い時と低い時では、心身に与える影響が異なる。

13~15㎐を「低ベータ波」という。
日常的な意識状態のこと。

なかでも、SMR波(Sensory Motor Rhythm:感覚運動リズム)と呼ばれるベータ波の一種が出ているとき、冷静で集中した状態になる。

…………………
以下、SMRについての余談

脳波をコントロールすることでパフォーマンスを高めたり、リラクセーションを促す「ニューロフィードバック」と呼ばれる脳波トレーニングが欧米を中心に広がりを見せているそうだが、何かひとつの、ある特定の状態を“いいもの”として捉えるのは、西洋的なものの見方の病理であると感じる。

シータ波を「ぼんやり脳」といってしまことがあるだが、そうではなく、自らの感覚を大事にして状態を移行できさえすればいいのだ。

先日見たように、シータ波にも重要な効能がある
ここを無視すると、無意識的なストレスが身体的な疾患となる恐れがある。

座る瞑想だけでなく、身体を動かすことを通じて実践を行っていると、ぼんやりした状態から、覚醒した状態やリラックスした状態に移ることができるようになる。

状態を自分の感覚で感じ取る能力、そして移行できる手段を持っていさえすればよい

…………………

15~25㎐は「高ベータ波」。
作業に集中すると観察される。

同時に、ストレスがかかると異常に発生するものでもある。

喧嘩、無理な仕事、夜中の恐ろしい音、トラウマ、過去の嫌な思い出…
これらについて考えてしまうとき、高ベータ波が放出される。

なので、「高ベータ波=ストレス状態」である。
この時体内には、コルチゾールとアドレナリンが多量に分泌している。

恐怖、不安、葛藤、怒り、非難、罪悪感、羞恥心という感情が浮かぶ。

前頭前皮質への血流が80%抑制され、酸素や栄養が不足する。
合理的思考ができず、客観的判断や意思決定ができなくなる。

細胞内の有益な機能が阻害される。
肉体の老化が速く進行する。


こういう状態に常時置かれていたら、肉体は病むだろう。
からだが丈夫な人でも、精神が病んでしまう。

現代のストレスのほとんどは、頭のなかにあると言われる。
毎日生きていれば、実際に怒りを覚える出来事はあるだろうが、それを上手に「なかったこと」にできるひとがいるということなのだ。
(その感情を“怒り”として知覚しないことも、練習の結果できるようになる。)

実践を正しく行うことで、能力は発揮しやすくなる。

実体験として感じているのは、10年前には難しくて読み進められなかった本が、理解できるようになったことや、怒りを始めとする負の感情がそもそも湧きにくくなったこと。
結果的に生きる感覚が変わり、心は穏やかになり、ワクワクとした好奇心をもって新しい物事や関係性に開かれていくことができた。

もしあなたが怒りなどの感情に苦しんでいたら、放置しておいてはいけない。
それは実際に、あなたの体を痛めつけるから。

また、心に生じた苦痛は肉体から癒してやると良い。
人類は長くこの問題について悩んできた。
伝わってきた叡智を活用してほしい。

№349 しあわせホルモン増産

「それを知れば二度と再び迷妄の中に陥ることはない聖なる真理を、賢者たちは汝に伝えてくれるであろう。」 バガヴァッド・ギーターⅣ-35

今日はアルファ波について。

8~13㎐。アルファ波は重要な鍵を握る。

ベータ波(目覚めているとき)と、シータ波(夢を見ているとき)・デルタ波(熟睡時)のちょうど中間に当たり、意識的な思考と無意識の領域に互いに影響を与え合うようなフィールドを作り出している。

ヨーガや瞑想などの、バイオフィードバック的な手法は、自分でアルファ波を意図的に生み出せるようになるためのもの。

 

真に総合力のある人は、アルファ波を多量に作り出すことができるらしい。
偏ったものの見方に左右されないためには、からだもこころも落ち着いている必要があるということなのだろう。

また、近年トラウマ治療にヨーガが用いられるようになっているが、身体的実践を通じてアルファ波を分泌させ、無意識の領域に働きかけることが可能になるからでもあるのかもしれない。

練習すれば、自分ひとりでも心身が安全と感じられる状態を再現できる。
自分自身に力を取り戻すために、「自分でもできることがあり、確かに変化させられる」という感覚を養えることはとても大事なはずだ。

また、アルファ波は幸せホルモン・セロトニンの生成を促進する。
日中にセロトニンを分泌させることで夜にはメラトニンが出るので、睡眠の質が向上する。
(ヨーガ実習の日はよく眠れる、という人はとても多い。)

実践の継続によりアルファ波は更に増長していく。
ヨーガを長く続けていると“性格が変わる(腹が立たなくなる)、打たれ強くなる、落ち込みからの回復が早まる”ということも、経験者には頷ける効果だ。

10㎐以上:脳内の学習や記憶の経路促進
4~12㎐:海馬の神経細胞が働きだす
8~10㎐:神経が共鳴して振動、情報交換

アルファ波は脳に最高の状態を作り出すことができる。
脳波計を装着しなくとも、アルファ波が出ていることはわかる。
気分が良くなるからだ。

できれば、装置などに頼らず「自分がどう感じているか」という感覚から判断できるように練習をしよう。
人間の心は抑圧が上手なので、始めは嘘をついている心に気付けないかもしれないが、だんだんわかるようになる。抑圧があると、頭で考えていることと心身の状態が一致しないからだ。

てっとり早くアルファ波を出すには、自分の気分を“ほんとうに”良くすること。
しかしこれが、言うほど簡単ではない。

なので、からだを使う、呼吸を使う、という方法を採用するとよい。
とてもやりやすくなる。

では、デルタ波、シータ波、アルファ波という自分にとって理想的な脳波でないときは、いったいどういう状態にあるのだろうか?

目が醒めている意識状態の時は、ベータ波が出ている。
この文章を読んでいるとき、あなたは集中しているので「低ベータ波」の状態にあるだろう。

低があるなら高がある。こちらが、そのままにしておくと厄介なのだ。
「高ベータ波」中心の状態からアルファ波を多めに出すところまで移行していくことが、「楽」な状態になっていくための鍵となる。

№348 シータ波について

「また我は大地に入り、我の力によって一切を支え、霊草ソーマの液汁(甘露)となってすべての植物を育てているのだ。」 バガヴァッド・ギーターⅩⅤ-13

昨日のデルタ波に引き続き、今日も脳波のお話。

4~8㎐:シータ波
これは夢を見ているときや、瞑想をしているときに現れる波形。
瞑想で30分以上座らなければ出ない、ということではないようだ。

2011年、チェルノブイリ原発事故の被ばく者団体「ゼムリャキ」で行われているヨーガ指導に加わるためウクライナに出向いた。
年に二回しか伺えないので、会えない間はDVDによる実習を行って頂き、半年おきにその効果を測る実験に協力して頂いた。

指導は無償で行われ、指導者の交通費は手弁当。滞在費はヨーガ療法学会が負担。宿泊はゼムリャキのみなさんのご自宅に、それぞれホームステイさせて頂き、帰国時に抱き合って別れを惜しんだことは良い思い出である。

さて、DVD実習は20分の体操(アイソメトリック・ブリージング・エクササイズ中心)と10分の瞑想で構成されていた。これは、過去を振り返る瞑想であったと記憶している。

じっと、無心に座っていた訳ではない。無心と簡単に言ってしまうが、そんなに簡単にその境地には至れないので。

実習は、できれば朝晩2回やってくださいと指示、やったかやらなかったかを記録してもらう。実にシンプルだ。

結果的に、毎日これを淡々とやって下さっていた方たちはシータ波まで出ていたのだった(効果は実習頻度に相関した)。
昼間にやった計測で、シータ波が出ていたのです。目は醒めているのに。

シータ波というのは、ヒーラーに共通してみられる脳波だそうで、人種や信念に関わりはないという。
また、6.4㎐で人間の軟骨細胞が再生、一般的な老化の原因とされる遊離基を中和する酸化防止剤の活動を促す。
5~10㎐で腰痛改善のデータがある。

このシータ波も、昨日紹介したデルタ波と同じく、人間が「治る」ということに深くかかわっているようだ。

では、瞑想をしたらそれだけで良さそうに思えるが、架け橋となるアルファ波の存在を忘れないでほしい
単に、瞑想のために座ったり、ヨーガの体操をするだけでは楽になれませんよ、という訳はここにある。

アルファ波が出ていたら、あなたの気分は良くなっているはずだ。
実習後に心身が脱力して「気持ち良すぎて、もう起き上がりたくない…」という至福感を感じたことがある方は、この感覚がよくわかるだろう。

ヨーガなどの身体的実践がベースとしてあって、こういった(心身や健康に関する)知識が与えられた時に、実体験として肉体で理解できるというのはとても大事なことだ。

楽になりたいとき、まずあなたは自分の気分を良くする必要がある
実習技法はそのための儀式になる。
あなたは、自分自身を癒すための儀式をもっているだろうか?


次回はアルファ波について詳しくお話したい。

ウクライナでのヨーガ指導に関しては、一般社団法人ヨーガ療法学会発行「チェルノブイリ被ばく者事故被災者支援とヨーガ療法」を参照しました。私も寄稿しています。

f:id:Yoga_Lotus:20200526094841p:plain




№347 治癒が起こる脳波

「高次の自己で低次の自己を制圧した者にとっては、自己は友である。しかし、低次の自己を制圧していない者にとっては、自己は常に敵の如くに振る舞うのだ」
 バガヴァッド・ギーターⅥ-6

昨日から引き続いて、脳波について。
今日はデルタ波についてお話したい。

「眠れません」というお悩みを抱えた方は、教室にも時々おいでになる。
明確に眠れない自覚がある場合はまだしも、睡眠の質があまり良くない場合でも、そのことに気付いていなかったり、「こんなもんか」と思ってあきらめている人が多いように感じる。

ぐっすり眠れている感覚を持たない人が非常に多いということを、最近になって実感した。
毎晩ぐっすり眠れている人には、そのつらい気持ちはまったくわからない。

眠りの改善にヨーガはかなり役に立つようで、長年服用していた睡眠導入剤を手放す結果になることが多い。
ヨーガ実習に伴って起こる心身の変化は実に自然なため、まるで“気のせい”のように思っておられる方が多いが、脳波などについて知ってみると、そのからくりが理解されるように思う。

デルタ波(0~4㎐)は深い眠りの時に発生する。
この時、心身に癒しや治癒が生じるという。

ヒト成長ホルモンも、デルタ波発生中に分泌される。
睡眠中に、デルタ波・シータ波が主の波形になると脳内のβアミロイドが消える
(*βアミロイド:アルツハイマー病患者の脳に見られるアミロイド斑の主成分として、アルツハイマー病に重大な関与を行うアミノ酸のペプチド)

0.19/0.37㎐、酵素テロメラーゼ生成に関する分子が共鳴。
(*テロメラーゼ:真核生物の染色体末端・テロメアの特異的反復配列を伸長させる酵素。癌や老化に関係していると言われる。)

0.5~3㎐、神経細胞の再生を刺激。
(*ストレスが生じ、ノルアドレナリンドーパミンなどの神経伝達物質濃度が前頭前野で高まると、神経細胞間の活動が弱まる。)

毎晩熟睡していると、自然に若返ったり元気になったりするわけだ。
では、毎朝眠り足りない気分で1日を始めていたらどうなるだろう。
数日ならともかく、そんな状態がずっと続いたら心身は疲弊してしまう。
症状や病気の多くは、そういう状態の結果として現れてくる、自分からの訴えではなかろうか。

このデルタ波を毎晩出したい。そして熟睡したい。
デルタ波に入るためには、夢見の状態のシータ波、そして目が覚めているときの意識(β波)と、シータ波・デルタ波の架け橋となるアルファ波を分泌させる必要がある

ヨーガ実習をすることで、このアルファ波がだんだん出やすくなっていくのだ。
この効果は1回の実習でも現れる。
鍵は、「思考が起きていない状態」を自分のなかに作り出すこと

頭のなかの声に捉われずに何かに集中して欲しい。
20分でいい。
ただそれを行うのはなかなか難しいので、動きを添えたり、呼吸を使ってみよう。

ただ、実習を継続しなければこの効果は持続しない。
長年の心身の反応パターンは、そう簡単に変わってくれないのだ。

救いと言えば、そう難しいことを行う必要はなく、呼吸を活用した簡単な実践で望ましい結果を手にすることができるということだろう。
押さえねばならない点を理解して、実習を行うことが大事である。

№346 なにが変わるのか

 

「この世を遍く満たすものは不滅であると知れ。この不滅なるものを滅ぼすことは、誰にもできないのだ。」 バガヴァッド・ギーターⅡ-17

この春から仏教学部で学ぶことになった長女。なんとサンスクリット語が必修だそうである。アーユルヴェーダの専門家教育を受けた際は、私もサンスクリットで名前が書けたなあ… 書き取り練習は筆ペンでやると上手に書けるよと提案したが、即却下された。

また、ブラフマンアートマンについて学んでいるようだが、このことを知的に理解するのはとても難しいだろうと思う。

私のヨーガの師匠は、京都大学大学院で宗教学を修めた後、教授から「でもさ、宗教って実地じゃないとわかんないんだよね」と言われ、「この数年間の勉強は何だったんだ!」と絶望したという。
その後、「なんだったんだ!」の思い惑い故にインドでマハラジに出会い、日本人として初めて入門を許されたそうなので、この師匠の葛藤の末にヒマラヤの伝統的ヨーガを日本で学ぶという私たちの現実があることに、深い感慨を覚える。
…………………

さて、ヨーガやって何が変わるのか(どんな得があるのか)ということに興味があることと思う。
「脳波」の側面からそのことをお話してみたい。

神経科学者であり、精神科医であるハンス・ベルガーは1924年に人間では初めてとなる脳波記録を行い、"Electroencephalogram“と名付け1929年に発表、後に国際的な評価を得る。しかし、ベルガーは公的、私的生活が二次大戦とナチズムによって妨げられたことにより、1941年6月1日に自殺。

現在、5つの脳波が確認されている。
(デルタ波、シータ波、アルファ波、ベータ波、ガンマ波)

DNAや細胞は、日々再生されている。
胃潰瘍はたった一晩でなる(穴が開く)と聞くが、胃粘膜の細胞などはたった二日で入れ替わるそうだ。資料を見ると「2-9days」となっている。

ということは、再生が2日でできてしまう人もいれば、9日かかる人もいるということ。
胃潰瘍の例のように、強いストレスがかかればたった一晩で細胞は変質する

生活していると、ふとしたことで怪我をしてしまったりする。ちょっとしたすり傷ややけどなどが「治る速度」を意識したことがあるだろうか?
このことと、細胞の再生速度は関連している。

なかなか傷が治らなかったり、痕が残ってしまう場合、「生きものとして、日々新しく細胞をつくりかえ、免疫を活性化してわるい菌などもお引き取り頂く」力が弱っているのかもしれない。

ではその真逆である「傷は早く美しく治る」状態が維持できている人は、その状態を外見からでも確認でき、実年齢よりも若く見える。
アンチエイジングは細胞再生力・免疫力向上でもあるのだから、そのためになにをすればいいのか。

ここでアーユルヴェーダの権威は「瞑想」と言う。
なんでアンチエイジングに瞑想?

この問いに答える鍵は、脳波の理解にある。
なぜ、ヨーガで心が穏やかになっていくのかもわかる。
が、長くなるので続きはまた明日。

№345 からだに宿る智慧

「愚者たちはヴェーダ聖典の言葉に学び、ヴェーダ聖典の目的とするもの以外になにもありはしないと主張する」 バガヴァッド・ギーターⅡ-42

インドに「パンチャタントラ」という書物がある。

何百年も前のこと、インドの南の国に三人の息子を持つ王がいた。
息子たちは馬鹿な上に大の勉強嫌い。どんな先生もこの三人に勉強を教えられなかったのだが、ヴィシュヌ・シャルマンという賢者が、鳥や獣も登場する短く楽しいお話を通じて、息子たちそれぞれに人生の智慧を悟らせた。

これが「パンチャタントラ」の成立した経緯だそうで、その教えは、幸せな人生を送るためには、用心深さ、幸運、挫けぬ勇気、友情、そして学ぶことが欠かせないよということ。

さて、このなかに「学問」について語っているお話がある。概略をご紹介したい。

…………………
パンチャタントラより 「学問は身を滅ぼす」

むかしむかし、あるところに4人のともだちがいました。とても仲良しでした。
4人のうち3人は学問が大好きな、俗にいう学者バカ。ちょっと常識に欠けているところがあります。
あとのひとりは学問には興味がない落ちこぼれですが、世間を渡っていく知恵は十分に身につけていました。

ある日4人は自分たちの将来について語りあい、旅に出ることにしました。色んなひとに会って教養を磨きたい。王様や貴族に目をかけられたり、お金もうけもできるかも…などと想像します。

でも、学問好きな3人はその学問を用いて旅を乗り切れるだろうが、落ちこぼれは足手まといになるかも…という意見が出ます。話し合いの末、やっぱり4人は昔からのともだちなんだし、一緒に出かけようということになりました。

さて、長い旅に出発してすぐのこと。
うっそうとした森に差しかかった4人は動物の骨を見つけました。学問好きの3人は自分たちが習った蘇生術を試してみたくなります。
落ちこぼれがおずおずと口をはさみ、「これはたぶんライオンの骨だよ、生き返られせないほうがいいよ…」というのですが、学問好きの3人は怒ります。落ちこぼれになにがわかる?!黙っておけ!というわけです。

3人の怒りに触れ、落ちこぼれはそれ以上なにも言えず、近くの高い木に登るまで少し待ってくれと頼みます。

…………………

ライオンは見事に蘇生した。
骨からライオンを生き返らせられるとは、3人は実に優秀だった!

オチは想像つくと思うが、蘇生したライオンに3人は食べられた。きっとものすごくお腹が空いていたんだよな。

すべてが終わった後に木から降りてきたひとりが、「学問ってやつは、身を滅ぼすんだねえ」とつぶやく。

どんな智慧も、「生きる」ということ、そして身体に根差していてほしいと思う。
今、トラウマやPTSDの治療は、身体からのアプローチによって進められる方が効果が出やすいということがわかってきている。

理性的に頭で考えたことだけで、人が変化や変容を手にしたりすることはなかなか難しい。
調子が良い時は「うまくいった」と思うのだが、身体に根差していない知識は強いストレスがかかると容易に消え去ってしまい、活用できなくなる。

だからこそ、からだの動きや呼吸の方法などを体得することを学び、からだのなかに確かな安心感という錨を落としていくのだ。

それは時間のかかる面倒な方法なのだが、一度体得すれば決して奪われない確かなものであり、あなたの財産となるだろう。