蓮は泥中より発す

अद्वैत :非二元に還るプロセスの記録

№588 1秒のながさ

一生の暗きおもひとするなかれわが面の下にひらくくちびる  篠 弘

 

 

 

3月2日

大人のみなさん。フラフラしてますか?
もしかして腰が痛いとか俺ももう年だなとか思って、いまこの瞬間を生きるよろこびをどこかに忘れてきちゃったんじゃないですか。だいじょうぶですか。もしかしてうっかり今朝最寄りの駅にそういうお心を置き忘れてきちゃった人もいるかもしれないから、今日は感動美談をご披露しましょう。読んで驚け!!

 

 

昨日もまたもや学校休み(振替休日)だったJK剣士。鳥取県立なのに鳥取市じゃなくて米子市にある武道館にて稽古。もうすっかり忘れちゃっていたが先日ケガをしたんでした。なので防具&道着は持たずに竹刀袋(でかでかと「光」と刺繍してある。全中出場記念)だけを持って参加。素振りや体幹トレ、計時サポートなどをしているようである。

ちなみにJK剣士たちの体幹トレはほんとに凄い。活きたカラダ、闘えるカラダをつくる体幹トレですよ。しゃがんで素振りしながら前に進むとか、できます?まあこの話はまた今度改めて。

 

終了後、本日の稽古の話をいろいろと聴かせてくれる。今日は事情があってカントク(超熱血・日体大出身)がいなかったので、ちょっと“ズル”モードだったらしい。どうりでずいぶん早く終わったなと思ったんだよね。今期のキャプテンAとJK剣士は、実をいうとおむつをしていた時代からの仲。まさかここで先輩・後輩として再会するとは思わなかったが、今でも家では保育園時代と同じく呼び捨てである。


「いつも15秒やるかかり稽古を、M(キャプテンAのファーストネーム)がさあ、10秒でいいって言うわけよ」ときた。ストップウォッチを手にした負傷JK剣士は「は?」と聞き返した。するとキャプテンAは「10秒でいいって。意味わかる?」と言う。

「いや、意味わかる?って言われても、わからんでしょ?!」と熱く語るJK剣士。
意味、わかります?はい、ここから感動美談。みなさま、ティッシュと心の準備をしてください。

JK剣士が言う。
「うちが剣道で学んだいちばん大事なことは、1秒の長さだ」

 

もう一回言いましょうか?
剣道で学んだいちばん大事なことは、1秒の長さ。

すごくないですか、この言葉。スーパーマルイでカートを押しながら、思わずJK剣士の顔を凝視しちゃったよ。そしたら意味わかんなかったと思われたのか、もう一回繰り返してくれたけれど、違うの、すごいと思ったから見つめたんだよ。

 

ああ。母は、JK剣士がまだJKじゃなかった頃の試合を思い出して涙が出そう。あと1秒あれば、この1秒を耐えられれば。傍から見ているのとは違う時間の流れの中で、密度の濃い数分間を闘いぬいてきた子たちにしかわからない世界がある。

 

 

行をするとき、点前をするとき、その刹那だけにこころを留めて今この瞬間にしかいないようにして生きる。Yoga歴が少しずつ長くなるにつれて、ぼんやり無意識に何かを考えぐるぐるまわる思考に翻弄されたりすることはなくなったけれど、このひとつの選択を間違えたら勝負が決するなんて思いはしたことがない。勝ち負けにこだわってなにかをすることも、短期的になにかを成し遂げろと迫られるのも大のニガテ。こんな私からなぜこんな子が生まれたものだろうか。

1瞬の重みに私も思いを馳せてみる。
茶杓をそっと、息を詰めながら茶入れの蓋の上に預けるとき。香を、炉のなかの最も適切な場所にと思いながらそっと置くとき。濃茶をどこまで練るかという判断。曲の最後の一音の響きに耳を澄ませ、掌で絃に触れて音を止めるとき。合奏のかけあい(箏と三絃で対話をするように交互に弾くこと)の、一瞬の間。
そして、いまここで、この方にこの言葉を伝えておかねば、と思う直感がやってくるとき。おからだに触れ、掌に感じるものに耳を澄ませているとき。マントラを唱え終え、聖音が空間に、静かにひろがっていく一瞬。

 

 

今日はカントクがいないから、ふだん15秒のところを10秒でいいんじゃい!というキャプテンAの無理に負傷JK剣士はしぶしぶ従ったらしいが、如何にも不満そうだった。もちろん他の先輩も「それはさすがに短くね?」とツッコんだそうだが、キャプテンの暴挙は完遂されたみたい。

ちなみに試合時間は3分ね。激しい打ち合いの稽古を15秒やりながら大事ないつかを待つか、10秒やりながら待つかは全然違うはず。だからJK剣士は「意味わからん」と言ったのだろうが、キャプテンAにはキャプテンAの深く思うところがあったんだと思うよ。かなり強い人だしね。単にサボろうとか楽しようとかそういうことでは決して…。
でもこれ、カントクにバレた日にはさあ…まあでもたまにはいいか。カントクがいないことがほんとに年に数回とかいうレベルだもんね(超熱血だから)。

 

1秒の長さ、重々しさ。
JK剣士にこれを言われて、ドキッとしない大人はあんまりいないんじゃないかな。いや、私だけがぼんやり生きてきたってことか。母はこの言葉をきっといつまでも忘れないよ。