蓮は泥中より発す

अद्वैत :非二元に還るプロセスの記録

№481 リアルなハグをしたい

簡潔に君が足りぬと思う夜 愛とか時間とかではなくて   俵万智

 

 

本日帰宅する。いったい何日経った?
私は旅行準備が嫌いである。「出かける」という行動準備のための思考(何がどれだけ必要?気候は?会う方は?何を着る?……)を減らしたくて、一度出かけたらひとしきり動き回って帰りたい。一旦出てしまえば、何が足りなくても対処するだけだ。
この旅行日数、そして冬の嵩張る服を収めるのに、今のスーツケースでは容量が足りないのが悩ましい。約20日後にまた旅の人となる。

 

先日、名古屋駅でさとちゃんと会った。
山本屋本店で味噌煮込みを食べながらダルシャナをする予定が、こちらの都合で開始時間が遅れてしまい、山本屋の前には長蛇の列ができていた(みんな味噌煮込みが大好きなんだ!)。そのため、急遽えびフライを食しながらのダルシャナに変更となった。
実に立派なえびフライ、とても良心的な価格。名古屋の食文化は豊かである。

 

 

教師と呼ばれおり、教える側に立っている。
私がなにかを誰かにお教えするという態になっているものの、ほんとうのところどうなんだろうか。

存在は織物のように緻密に関係しあってここにあるものを、どちらに立つかなんて変更可能な座席指定のように思える。あたかも私が話したことの結果ポジティブな変化が起きているようにみえるが、それは錯覚かもしれず、貢献も成果もすべて絶対者ブラフマンに帰するものだ。私の存在の核がアートマンであるなら、そういうことにしかならない(これがKarma Yogaの考え方)。
でもこの世は神の遊戯・LILAなのだから、この神聖な遊びで与えられた役割を、どこまでも真剣に果たすのが大事なのだと思う。私はこの現世での遊びに及び腰になっている部分がある。特に金銭という側面で。


この日、立派な二尾のえびフライを前に、さとちゃんは私をなんどもハグしてくれた。席が対面のカウンターだったので、ハグされている私と、涙を流している私たち二人を、向かいの席にいる年配の女性が戸惑ったように見ていた。

 

さとちゃんは、友人を亡くした私の嘆きようが足りないことに気付いている。
数日間そばにいて手を握っていたことで、僭越ながら二日ほどこの世で一緒にいられる時間を伸ばし得たように思いつつも、彼の苦痛を伸ばしたようにも思ってしまう私のために泣いてくれる。


泣くなと言われれば泣きたくなるが、泣いていいよと言われると泣けない。
なので少しずつ、私なりの弔いの儀式をしている。私がひとりで行くバーがこの世に二軒だけ存在するが、その店でマンハッタンとXYZを飲もうと決めていた。友人とは何度もお相伴させてもらってきたが「XYZっていうのは、もうこれでお仕舞だよって意味なんだから、一杯目に飲むなよ」とツッコまれたことがある。彼が逝って以来、「これでお仕舞」という言葉が頭のなかを巡ってやまない。
からしばらくのあいだ、できるだけどこかでXYZを飲みたい。ひとりで行ける二軒の店では無事に献杯を終えたので、一緒に飲んでもいいよという人は声をかけてくれると嬉しい。

 
“SAT CHIT ANANDA”
私たちみなの心臓のなかに住まいする純粋意識こそが真実在であること、そしてそれが至福そのものであることを示す言葉。たったひとりで完璧に充たされ、歓びにあふれた存在であるこの意識は、楽しむために自らを二つにわけた。だって、ひとりでは愛し“合え”ない。
男女が抱き合ったような形であった純粋意識が、その在りようを存分に楽しむためにわかれたのに、わかれた途端私たちは記憶喪失に陥り、本来ひとつであったことを忘れた。そして孤独の苦しみのうちに生き始める。 ひとつであったことを思い出すために、人は永くYogaを求めてきた。4000年ともいわれるYogaの歴史は、人が人を愛することを諦めなかった歴史かもしれない。Yogaを通じて自らと出会い直すことと、誰かと愛し合うことは、本質的には同じ行為だから。

 

なにも嘆く必要がない。離れていて寂しいと思う必要はない。
でも限りあるからだをもってここで息をしている私たちは、今この瞬間、遠く離れている誰かを思って切なくなる。逢いたい、声を聴きたいと思って胸が震えるのは、私たちがブラフマンでありアートマンだから。本来ひとつであることを存在の中心で確かに知っているから。わかれたくなかったのに、わかれたからこそ抱き合うことができる。それはなんて素敵なことなんだろう。

 

あらゆる感情をジャッジすることなく、この肉体という器で抱き留めて生きたい。
もう会えないひとを思って泣けないこと、また逢えるひとと離れたくないと泣くこと、その双方が、存在そのものに対する祝福であるように思う。

 

さとちゃん、ありがとう。やっぱりリアルなハグは最高だね。