「そうした苦悩との関係の断ち切り方がヨーガと呼ばれるものであると知れ。」
バガヴァッド・ギーターⅥ⁻23
病気になるにも健康を回復するにも感情が深くかかわっている。
私たちの免疫系は、私たちの日々の経験と無縁ではありえない。
健康な医学部の学生たちの正常な免疫機能が、期末試験のプレッシャーによって抑制されたという報告がある。
漢方では、内臓と感情の関連について語る。
ざっと説明してみよう。
五臓:七感情
肝:怒り
心:喜びが過ぎること
脾(膵臓):思いわずらうこと
肺:悲しみ、憂い
腎:驚き、怖れ
信じられないと思うだろうか?
腎が虚しているとき、些細なことにびっくりしたり、怖くて物事が決断できなかったりする。
ああでもないこうでもないと考えてばかりいると、消化不良になってお腹にガスが溜まる。これはとても痛い。
クヨクヨすると胃も痛む。(胃は、漢方で「脾」と呼ばれる膵臓に大きな影響を受けている臓器)。
悲しいことがあってしょんぼりした後、痰が絡むようになって、それが咳や気管支炎に繋がったりすることもある。
観察すれば、皆さんも気付くことができるだろう。
先程あげた試験のプレッシャーに関連して、孤独を感じている学生ほど免疫系が強く抑制されることがわかったともいう。精神科の入院患者を対象とした調査でも、孤独と免疫機能低下との関連が示されている。
実際にはこういった証拠は山ほどある。
慢性的なストレスの長期的な影響は怖いくらいなのだと、私たち自身が知っておかなければ我が身を守れない。
試験のような外の世界からやってきたストレスだけならまだしも、自分のなかに「審判者」を住まわせ、じっと見つめられながら人生を送る人たちがいる。
その審判者が行動や考えの「良い・悪い」を判断して責めてくることが恐ろしく、心の底にある願望を認めることも満たすこともできずに生きることになる。
たまらなくつらいことであり、肉体にも大きな影響を及ぼす。
感情自体も電気的、科学的作用によって人間の神経系からホルモンが放出される現象である。
感情は、体内の主要な器官、免疫系の防衛機能、からだの状態を整えるために体内を循環している多くの化学物質の作用に影響を与え、また逆に利用されてもいる。
感情が抑圧されると、病気に対するからだの防衛機能が活動できなくなる。
「抑圧」
感情を意識から引き離し、無意識の領域に追いやること。
あなたが自分の感情を十分に感じ、それが教えてくれるところを理解しなければ、防衛機能が暴走し、健康を守るのではなく損なう結果になる。
ヨーガはこだわりを手放すことを求める。
頭で考えるだけでは出来ないからこそ、からだを動かし、呼吸を調え、過去の記憶を精査することによってそれを行っていく。からだからおこなうからこそ、感情も自ずと鎮まっていく。審判者に対抗できる、より愛情深い「観察者」を育てることもできる。
誰かに対して強い怒りを覚える時や、何かに対する強い愛着も、あなたの無意識の審判者を教えてくれるサインとなる。
誰かのことが許せないとき、「自分のなかの基準・正しさ」という審判者を改めて意識し、客観的に見つめることで、あなたはより一層自分自身と親しくなることができ、健康に近づくことができる。
無意識から生まれる感情を、無意識に誰かにぶつけても、あなたの健康が阻害されるだけだ。
そのことがだんだんとわかって来るので、ヨーガをしていると腹が立たなくなり、自分のなかから生まれる内的な感覚に、素直でいることができるようになる。
この世界が、怖くなくなるのだ。
真の感情を抑圧して生きている人は非常に多いので、ヨーガのような実践を通じて、自分自身を救い出すことと同時に、他者への共感も育んでいきたい。
私たちの中の生命原理・アートマンは、あらゆる人の中に宿っているのだから。