蓮は泥中より発す

अद्वैत :非二元に還るプロセスの記録

№637 意味を帯びる

たったいまきみがはずした腕時計その円周がぬくいうれしい  佐藤弓生

 

 

4月20日
みなさまこんにちは。フラフラしてますか?
東京に滞在していてもとっとりに帰ってきてもフラフラしている私は、本日一歩も外に出ず、片付けやら衣類をはじめとするモノの手入れをしていた。10日後にはまた旅のひととなるので、次の旅行準備も兼ねての作業である。

その合間で、昨晩ウッカリ見つけてしまった有吉佐和子原作「和宮様御留」のドラマ化・大竹しのぶバージョンを見た。このドラマの斉藤由貴バージョンを高校1年生のときに見て以来、原作の虜となった私。いったい何度読み返したかわかりません、という小説が本棚には何冊もあるがこれはそのひとつである。

14代将軍家茂に降嫁なさった皇妹和宮様は実はニセモノ(替え玉)だったという説、皆様ご存知?なんとまあ歴代将軍の墓所の大規模調査の際に判明した衝撃の事実があり、真相は闇のなからしいよ…。そのことを下敷きに、歴史の波に翻弄される無力な若者の姿を描きたかったと有吉先生はあとがきに書いておられたような気がする。詳しく知りたいひとはわたしを飲みに誘ってください。でも語りだしたら止まんないからお覚悟のうえで。もうやめてー!って言ってもやめないから。

 

で、若き大竹しのぶ。うまい。見せる。このひとはホントにすごいと思ったのは貴志祐介の小説「黒い家」の映画化作品を見たとき。トラウマ映画です。原作を超える映像作品というのはなかなかないと思っているけれども、「和宮様御留」も「黒い家」も映像化作品の方がすごい。

私は京都出身ではないので(一目見れば“そりゃそうだろ”ってわかる)、作中でいちばん悲惨な目にあう登場人物・フキが祇園さんのお祭りのことを思い出しながら「コンコンチキチンコンチキチン」と歌う節回しみたいなものもサッパリわかんなくって、まつり=長崎くんち=モッテコーイ!みないなノリでしか想像できないものを、映像は「あ、こんな風情なのね」とぐうの音も出ないように理解させてくれるので有難い。

ちなみに「モッテコーイ!」というのは「アンコール」を意味する長崎くんち語。あら、それ素敵ね、もう一回言って?というのを心の底では「モッテコーイ!」と言いたい気持ちでいっぱい。でも誰にも通じないんじゃアホみたいだから言わない。


身代わり少女・フキは身分は低いがバカではない。なのにまわりのやつらは彼女が身分が低いというだけでバカだと思って、彼女に一切何の説明もしないで都合のいいように扱う。

状況がわからないという恐怖はふつう耐えがたい。
実のところ生きていて状況がわかるなんて言うことは幻想にすぎないと思うのだけれども、通常「こうなるだろな」ということが「ほら、やっぱりこうなった」ということを何かの保証のように生きてしまうので、それが思うように進まなかったときに人はパニックに陥る。

まあこういう視点はVeda聖典を読んでYogaをしていてもなかなか身に付くものではないので(私のように)、フキはぜんぜん悪くない。そして彼女が精神を病んでいくのもまったく不思議じゃない。彼女の人生も悲惨だが、若くして隠遁生活に入る宮さん(小説のなかの話です)も、新たな身代わりになった娘もそのいいなづけも、誰もかれもが大きな歯車のなかに呑み込まれていき、ものごとの大きな流れに人は抵抗できないということを想う。私なんぞは森の子リス的人生を平々凡々と送ることが許されているが、今後何が起こるかは絶対者のお心ひとつなのである。たぶん。

 


さて、昨日書いた小説ネタについて触れずおくわけにはいくまい。

辻先生、このオトコ(主人公)ちょっとどうでしょうか。甚だ個人的な意見ではございますが、この東垣内豊はいけ好かないケ〇の穴のちっちゃいやつにしか思えません。グジグジと自分が棄てた女のことを想い続け、彼女から25年を経て受け取ったラブレターを銀行の貸金庫に入れて月1で読みに行くってなんなんでしょう?沓子も男運が悪かった。実に気の毒です。

彼女との出会いは尊い存在の導きによって起きた必然の出来事だったと返信に書いていますが、例え二度と会わなくてももっと紳士的なやり方はあったんじゃないでしょうか。ここで、尊いお方=絶対者のお名前を出すとはナニゴトであるか?!と不肖ワタクシは思ってしまいました。沓子は「あなたを誇りに思っている」と言いますが、うーんその判定は如何なものか?同意しかねる私がいます。


次回上京でサシのみした際、お相手に「こういう男どう思う?」という調査を展開し、そこで留飲を下げるかまた怒りが新たになるかわかりませんが、この読書体験はわたしをそこまでひっぱりそう。そういう意味では辻先生のお仕事は偉大であります。「冷静と情熱のあいだ」以来楽しませて頂きました。心より感謝申し上げます。


「こんなに悲しい別れをしなければならない自分のいい加減な性格を憎んだ」
ほんまやで。


「君に愛された時、私は意味を帯びる」
これはヒロイン沓子の言葉。いい言葉だと思う。
自分が自分であると思っている以上の意味を、他者は私に与えてくれる。他者と私は表裏だから、この意味は存在の奥底で私が求めたものなのかもしれない。

ということは、沓子が求めた恋愛がこれほどに苦しいものであったことも、訳があることだったのだろうか?

 

 

 

新装版 和宮様御留 (講談社文庫)

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サヨナライツカ (幻冬舎文庫)

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  • 作者:辻 仁成
  • 発売日: 2002/07/05
  • メディア: 文庫