蓮は泥中より発す

अद्वैत :非二元に還るプロセスの記録

№518 成人の節目

遠くからみてもあなたがあなたとわかるのはあなたがあなたしかいないから
原慎一

 

 

 

12月22日

長女の前撮り撮影。
成人式の前撮りなんてするんだね、今どきは。でも本人が「本番の式には出ないかも」というし、その日にバタバタ慌ただしくするのもイヤなので前撮りを採用した。

 

この娘は、4歳のときから箏曲の稽古をしている。
私についてお茶の稽古場や茶会に出入りしてきたのは1歳半からで、10歳のときに正式に入門を許された。なので幼少時から、着物を着る機会が格段に多い方であったと思う。この子の着装のためにいちいち美容院にお願いしていては、お金もだがなにより時間的な段取りが大変なので(送迎などしていたら自分の準備ができなくなる)、初めの頃は先生のお手を煩わせ、私が着付けを勉強し始めてからは手ずからこの子に着物を着せてきた。

中学生のとき、着付けの先生のお世話で振袖を調えた。ああこれで安泰だと思った。これで成人式も、嫁入り(するのかわからんが)前までの正装もOKだなと。浅慮なことこの上ないね。
余談だが、着付けの先生にとって着物は「教材」である。蛇の道は蛇で、私たちは呉服屋さんでは着物は買わない。絶対に買わない。見た目の美しさだけでも買わない。まあこの先は言わないでおこう。秘すれば花。どの業界も、不透明で暗い部分があるのは一緒なのかな。

ともあれ、「これでもかあ!」というくらい繰り返しその振袖を着た。
帯というのは、ご存じない方もあるかもわからないが実は消耗品である。特に振袖の帯は結んだり折りたたんだりするので、彼女のものも既に微妙にくたびれている。「その青い振袖=ふーちゃん」と教室ではイコールで結ばれるくらいそればっかり着ていたから、本人も違うものが着たくなっている。

しかしこの振袖に散々袖を通して、私たちは気付いてしまったのだ。 
13歳、16歳、20歳で、似合う柄も色も違うという、当然の事実に。

大富豪じゃないからそもそも何枚も買えないし、ポリの振袖は絶対嫌。たとえ富豪であったとしても、振袖ばっかり持っててもつまんないしなあ。

昨年の初釜のお席でその青い振袖を着せたとき、なにかがズレてる感がどうしても拭えなかった。要するに、中身は成長しているのに、外側が可愛いまんまなのである。振袖自体に打ち止め感が出ている。「あー、ふーちゃん別嬪さんになったねぇ」「おせ(大人)になったねえ」と言っていいのか、「ふーちゃん、やっぱりかわいいねえ」と言っていいのか、一瞬混乱する。「なにかが違うな…」と、芸の上での姉妹・りえさんと二人で呟やくことしきりだった。

 

前撮りの話に戻る。
結局のところ、お茶のお師匠様にお願いして、お孫さんのS子ちゃんが約10年前にお召しになった振袖を貸して頂いた。S子ちゃんは、当然ながら幼い頃から茶室の空気を吸って育ち、20代でお家元での講習も修められた我が社中期待の星である。実に美しい点前、そしてお振舞。その上勉強熱心で謙虚で可愛らしい、という非の打ちどころのないお嬢様なので、その香気を授かれるといいなあ!という願いも込めつつお願い申し上げた。20歳を前にして初めて「赤い着物が着たい」というようになった長女の期待に添う、赤地に流水、鴛鴦の柄のお着物である。お師匠様も喜んで快くお貸しくださった。


人に着物を着せることを「他装」と呼ぶ。自分で着ることは「自装」である。
先だってコンテストに出場したことを書いたが、これは自装のコンテストである。この自装が十分にできるようになってから、他装の科目に入るというカリキュラム。基本的には。

何故ならば、ふだん自分できものを着ない人の着付け(他装技術)は、ピントがズレているうえに苦しいことが圧倒的に多い。結婚式とか成人式とかで、美容室等で誰かに着付けをしてもらったそこのあなた。苦しくて、ご馳走が食べられなかったのではありませんか?!

 

コンテストに出場経験のある私は、かなりきものを着てきた方。娘に着せるために他装技術も学んだ。振袖に比べれば、訪問着や小紋の着付けなど朝飯前である。演奏会などではこの点をもって先輩に引っ張りだこ(演奏じゃなくて…)。「壺井さんの着付けじゃないと嫌」というコアなファンまでいる。しかも無料。プロじゃないからね。

だから私が着せればタダなのだが、ずっと私の着装でしか着物を着て来なかった長女は至極贅沢者で、この度は着付けの先生でないと絶対にイヤというのである。細部まで美しさを追求したいから。ママはプロじゃないからね。


ということで、小学生の頃から、演奏会でも茶会でも髪を調えてくれてきた美容院のお姉さんにセットを、着装はコンテスト入賞者を多数輩出してきた米澤先生とそのお弟子さん、メイクはコンテスト出場経験のある母が担当することになった。撮影はコンテスト出場用の公式写真を撮影しているスタジオ。なんだか手作り感いっぱい!

 

 

いろいろと要求の高い子なので、ダメ出しされたらどうしようと心配していたが、本人の予想に反して撮影された写真が美しかったので、ご満足のようであった。いや、ほんとによかったよ。

撮影開始時にはやや緊張気味であったものを、ギャラリー(先生とそのお弟子さん、私。要するにオバチャンたち)が、アイドルを見るように「キャー!かわいい~!!」「笑った~」「ステキ~」と連呼していたらだんだん表情が緩んできて、最後は本当に柔らかい良い笑顔を見せてくれた。カメラマンの方が「こんなに姿勢のいい子はまずいない」と言って下さり、傘を持ったポーズでも撮影を行ったのだが、実に可憐で美しかった。

しっかり者の長女だが、ふとした時にこの可憐な感じが現れ出る。母にはこれがたまらない。この度の撮影では、関係各所にご無礼のないよう気を回すのに精いっぱいで涙も出る暇がなかったが、演奏会などで緊張した彼女の声が僅かばかりふるえるのを聴いて、その可憐さが愛おしくて号泣してしまい、舞台を見られなかったことを思い出す。

結婚に何の期待もしていなかったのに、ただただ子供は持つと思っていた。子供二人にビビビ~!と操作されていたのだと合点しているが、ここに至るまでのあれやこれやも、すべてがそのようでなければならなかったのだと思える。長女とJK剣士の愛らしさは、私にとっては年を重ねても変わることがないどころか、いや増すばかりである。子供が可愛いのは三歳までと聞かされてきたが、私はそうではないと思う。そういうしあわせなお母さん業をさせてもらっている。有難いこと。

 

 

さて、和装と洋装では、美しさのポイントが違う。
私はどちらかというと、この和装の文化のなかに生きている。着物を着たらきれいなのよ、と言っているわけではないですよ…。ともあれ、洋服に関しては思考停止気味である。インドに持っていけないものは要らないっていうか?
今年も来年も、きものを着るような場はことごとく中止だけれども、私が叩き込まれた着付けの師・米澤先生による着意点をお伝えしておこうと思う。
皆様も、ぜひ楽しい和装ライフを送ってくださいね。

 

・胸は和装ブラで調える。着崩れの原因になります。
 日本舞踊家の尾上博美さんが考案された“Wafure”の和装ブラがおススメ。
 http://wafure.com/

・洋装感覚で髪を調えない。イメージは演歌歌手。

・眉を長くしない。洋装では長め、和装は短め。

・シェーディング不要、ハイライト意識。

・アイラインは目じりを跳ね上げない。

・唇の色とチークは、着物に負けないよう華やかに。

・着物を着たら内股で。脚は揃え、背筋は伸ばして。

・動きは軸を意識して。お相手を拝見するときは体ごとそちらを向く、など。

・お辞儀は、頭を上げるときをゆっくりにすると優雅な印象に。

 

 

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撮影に向かう後ろ姿。
子供の頃からお世話になった方々のお心づくしで、今日のこの姿がある。