蓮は泥中より発す

अद्वैत :非二元に還るプロセスの記録

№318 呼吸の乱れ

呼吸とリラクゼーションの関連について、エビデンスがあるのですか? というご質問を頂いた。多くの方は、自分の体をどうやって楽な状態へ導くのかの方法についてご存じないのだということに、改めて気付かせて頂いた。

今、瞑想にまつわる研究が盛んに行われているので、たくさんのエビデンスが続々と出てきている。医学的に信頼性の高いエビデンス二重盲検試験など)を出すことは、何かの研究に加えて頂かない限りヨーガ・セラピスト個人としては難しいが、呼吸を重視した体の動きを用いることで心身を平安な状態に導き、呼吸数や心拍数、心理状態の変化を測り、個人の語りを元に評価することなら私たちも行ってきた。

民間の資格とはいえ、日本でヨーガ療法士として認定を受けるためには20名の方に指導した結果を症例として提出し、うち1名分を研究総会にて発表しなくてはならない。
日々の指導を通じて、結果的にヨーガがどのように寄与できたのか、それともできなかったのかを、指導者はいつも心に留めておかねばならないと思っている。当然のことだけれど。

さて、伝統あるヴェーダ智慧では、病気に至る過程を説明している。
ヨーガの根本経典である、「ヨーガ・スートラ」Ⅰ-31にある記述を紹介しよう。

「苦悩、憂うつ、体の震え、呼吸の乱れなどが心の散動状態に伴って起こる」

心身のいかなる障害も、いかなる感情(否定的な感情なら尚更)も、苦悩や憂うつをもたらし、筋肉や血管の収縮リズムを乱して、「身体の震え(アンガメジャヤドヴァ)」や「呼吸の乱れ(シュヴァーサ・プラシュヴァーサ)」を引き起こす。

この乱れは、病気に至る心身の連鎖的な反応を開始する引き金になる。呼吸リズムの乱れは、この筋肉や血管の乱れが原因になっているからこそ、呼吸という窓を通じて、結果的に生じた肉体の乱れを調えていく訳だ。


呼吸と一口にいうが、三つに分けて考えることができる。
1. 浄化法としての呼吸
2. 通常の呼吸
3. プラーナーヤーマ(調気法)

この3つの差は何かというと、単純に言うと1分間当たりの呼吸数の差である。
1から3の順で呼吸数が減っていく。

浄化法は、お腹や胸をしっかり動かしながら強く息を吐き出すことで、肺の中を浄化するイメージだが、実際には体内の炭酸ガス量の変化などにより、脳や細胞にも影響を及ぼすので、肺だけをどうにかするものではない。

普通呼吸は私たちがいつも行っているものだが、普段から呼吸法などの意識的な訓練を行っていない場合、肺の上部三分の一しか使えていないようである。肺は自力で動けないので呼吸筋の働きが重要な役割を担っているのだが、この一連筋肉の働きが上手くいっていないことが呼吸以外にも大きな悪影響を引き起こしている。

例えば、常日頃からヨーガの体操を含む呼吸の訓練を行っている場合は、胴体全体が呼吸という絶え間なく行われる活動の中で刺激を受けることになる。こういった練習を始めた方からは、「体温が上がった」「便秘が解消した」「腸の働きが改善した(腸閉塞などの再発防止など)」「腹が立たなくなった(感情が安定した)」「尿漏れしなくなった」などの感想を聞くことができる。

呼吸をしない人はいないので、呼吸を重視した訓練を日常生活の中で取り入れることが、想像以上に多くの恩恵をもたらすことをわかって貰えればと思う。

最もゆっくりした呼吸はプラーナーヤーマと呼ばれる。
何らかの形で息を止めている状態が含まれる呼吸で、インドの言葉で「プラーナ」という生命の気(生気)そのものの交換を行っている。このプラーナーヤーマでは空気を吸っているのではなく、呼吸の根底にある生命力をやり取りしていると考える。

ハタヨーガ・プラディーピカー第2章16節には、「プラーナーヤーマを正しく行じるならば、すべての病は無くなる。しかし、プラーナーヤーマを誤って行じると、あらゆる種類の病が生じてくる。」という記述がある。
調気法も体操と同じく禁忌があるので、自己流で行うことは避けて欲しい。